「身心一体科学研究会レクチャーシリーズ(※)」
場所:東京大学アイソトープ総合センター 1階大講義室
講師:東京大学医学部精神医学教室 準教授 山末英典先生
タイトル:脳障害から解く他者への協調や共感の物質機構、社会性の男女差要旨:他者の意図や気持ちを感じ取って相互的に交流することが難しいために、たとえ知的水準が高くても社会の中で居場所を作れずにいる自閉症スペクトラム障害の方は少なくない。一方でミリメートル単位・秒単位で脳の構造や働きを捉える技術が飛躍的に進歩し、この対人交流の障害の基礎を成す脳内回路が分かってきた。こうした脳内回路は社会性の男女差と関連する脳部位を含み、自閉症スペクトラム障害の頻度の男女差との関連が注目される。さらに、こうした脳内回路の障害の治療法開発や遺伝要因解明の試みについても述べる。
関連文献Yamasue H, Abe O, Suga M, Yamada H, Rogers MA, Aoki S, Kato N, Kasai K. Sex-Linked neuroanatomical basis of human altruistic cooperativeness. Cerebral Cortex. 18: 2331-40, 2008.Yamasue H, Kuwabara H, Kawakubo Y, Kasai K. Oxytocin, sexually dimorphic features of the social brain, and autism. Psychiatry and Clinical Neurosciences. 63: 129-40, 2009.Yamasaki S, Yamasue H, Abe O, Suga M, Yamada H, Inoue H, Kuwabara H, Kawakubo Y, Yahata N, Aoki S, Kano Y, Kato N, Kasai K. Reduced gray matter volume of pars opercularis is associated with impaired social communication in high-functioning autism spectrum disorders. Biological Psychiatry. 68:1141-7. 2010.Inoue H, Yamasue H, Tochigi M, Abe O, Liu X, Kawamura Y, Takei K, Suga M, Yamada H, Rogers MA, Aoki S, Sasaki T, Kasai K. Association between the oxytocin receptor gene (OXTR) and amygdalar volume in healthy adults. Biological Psychiatry. 68:1066-72. 2010.
※身心一体科学研究会レクチャーシリーズ
身体は細胞が自律的に生きる場であり、地球は私たちの身体が生きる場である。元気な細胞が住む身体はこころを豊かにし、多様な人間性を受け入れて互いに生かし、共に生きることを可能にする。そうしてもたらされる平和な社会と、地球全体のサステナビリティーは、様々な階層における良い環境の積み重ねによって保証されるだろう。しかしながら、それを維持しよう、より良くしようとする小さな努力を人間が忘れたとき、全てが壊れ落ちる。原発事故が顕在化させた多くの根深い問題は、利便性を追求し自己中心的になりきった私たち日本人に、人間の「いのち」を忘れた科学技術と社会のあり方を見つめ直すよう警鐘を鳴らしている。このままでは健康長寿どころではない。 この身心一体科学研究会では、脳科学の目覚ましい発展により物質プロセスとして解明することが可能となった身心問題を、先端科学的に解明されている第一線の研究者をお招きしてお話を伺い、真に社会が望む科学とは何かを追求し、実践していくための研究戦略を出していけるよう議論していきたい。(担当 清水)